私の人生と音楽

第14回

 「東京プロムナード・フィルハーモニカーで目指している事    佐藤  迪

 私は長年打楽器奏者として様々な素晴らしい指揮者との演奏を経験し、ウィーン・フィル やベルリン・フィルをはじめ世界の有名なオケの演奏に接して行く中で、私なりに正しい音楽 を表現する為のノウハウを蓄えて来ました。それを纏めた物が「私の音楽に対する基本的な 姿勢」です。

<佐藤 迪の「音楽に対する基本的な姿勢」>
* 私は日本語の「音楽」という言葉が大好きです。「音を楽しむ」と書きます。楽器を演奏
するにしても演奏会の客席で音楽を聴く立場であっても基本は「音を楽しむ」という事だ と思っています。特に演奏する立場になると「音を楽しむ」様になるにはそのための「音 が苦」練習・勉強が必要になって来ます。しかしその様な苦労の先には「音を楽しむ」事 が現実となるのです。またそうなる様に頑張れるのです。

*「楽譜に忠実に!」 作曲家が楽譜に書いた事をきちんと音にする。当たり前の事ですがそれが中々難しいの です。楽譜というシステムは作曲家の内面的な事までは書き記す事は難しいものです。 作曲家のマーラーはそのスコアの中に事細かに自身の音楽の方向性を理解してもらうた めに色々な書込みをしています。しかし普通の作曲家はそこまではやっていないため演奏する側が楽譜の中からそれを読み取って

作曲家の意図に近付こうとする努力をしなければなりません。それを解決する為に多くの先人の音楽家が作り上げてきた演奏する為 に守るべきセオリーが存在します。前回にも書きましたがウィーン・フィルやベルリン・ フィルの演奏からそのセオリーをたくさん学ぶ事が出来ました。 「楽譜に忠実に!」永遠の課題ですが最終的にはそれしか無いと思っています。

そのセオリーの一端を記しておきます。

フレーズの処理の仕方・リズムの処理の仕方・Staccato の処理の仕方、等々。

*「音楽は演奏者が出した音が聴く人に届いた時に初めて成立する」
  演奏者が出した音が客席の聴衆の耳に届いた時、初めて「音楽」として成立すると思い
ます。演奏家が練習している状態は音楽を作るための準備をしているに過ぎません。 
演奏家が本番で演奏し、その音が客席の聴衆に伝わって初めて音楽は成立すると考えます。 例えば CD や DVD も演奏家が演奏した音が録音されて入っている訳ですがオーディオ機器 で再生してそれを聴く人がいて初めて「音楽」と成り得ます。 そういう意味で演奏して「音を出す人」とそれを音として「聴く人」がいて初めて「音楽」 となる訳です。
  従って、演奏会の本番が非常に重要で、常に聴衆にどの様に届くかという事を考えて演
 奏しなければ成りません。聴く人にとって音楽として良い状態で聞こえる様に演奏する必
 要がある訳です。
・スコアに有る全ての音が聴く人に伝わる様なバランス作り。

 ・ スコアに有る全ての音が聴く人に伝わる様なバランス作り。

 ・ 表現はやり過ぎだと思う位大胆に!そうしないと聴いている人には伝わらない。

    等々。

*「自然体で音楽する」

  格好をつけようとすると音楽は不自然になってしまいます。
  素直に楽譜を読み取り、自然な流れで音楽作りをする事が大切だと思っています。
  格好よく見せようとする演奏には、私はどこか音楽に不自然さを感じてしまいます。
  演奏する楽譜に真っ白の状態で向き合い、素直な気持ちで作曲家の意思を汲み取る
  事が大切だと思います。
*「音楽を表現するのは3次元の世界」
  演奏しようとする音楽はそれに相応しいその音の「密度」と「速度」のバランスに支配
  されています。緊張感の高い音楽は密度の濃い音が必要ですし、もやもやした雰囲気を
  表現をするには密度の薄い音が必要です。「速度」とは音楽の勢いに繋がってきます。
  スピード感に溢れた曲は早い速度の音質が必要ですし、のんびりした音楽にはゆっくり
  した速度の音質が必要です。このバランスを無視した音を出すと音楽が不自然になって
  しまいます。
   また、密度と速度のバランスに加えて「アップ(上向き、)の音楽」(体がウキウキ
  する様な音楽)か「ダウン(下向き)の音楽」(一歩一歩踏みしめて歩く様な音楽)
  もちろんアップでもダウンでも無い平坦な音楽(摺り足で歩く様な音楽)もあります。
  その上下の感覚を的確に判断し、「密度と速度」のバランスと組み合わせる事で音楽が
  より立体的になり、生きた音楽を表現する事が出来ます。
  以上の様に音楽は3次元の世界で、全てが正しく表現される事により「より生き生きと
  した音楽」となります。その事が作曲家の意思にも繋がってくると考えています。

 私は以上述べてきた様な私の理想とする音楽を具現化する為に TPP を設立する事を考え、 2008 年に設立し、現在に至っています。これまでにも何度か書いて来ましたが、ウィーン・ フィルの様に TPP の楽団員全員が音楽を演奏するためのセオリーを共有し、同じ方向を目指 して音楽に取り組めば自ずとキチンとした音楽が演奏できる様になると思います。アマチュ アではありますが TPP がその様なオーケストラに育って行けば良いなと思っています。

今後も TPP の仲間と共により良い音楽を目指して進んで行きたいと思います。

                                                                              佐藤迪 <私の人生と音楽>完

                                                                      長い間のご愛読有り難うございました!